~ 寺尾園芸土木 オーストラリア出張レポート(拡大・深掘り版)~
今回のシドニー出張は、
現地造園企業との技術交流、造園職人育成プラットフォーム「Teien Master」の紹介、海外の庭文化の理解、そして今後計画している国際的な人材育成とネットワーク構築の検証
を目的として実施しました。
シドニーの植物、庭文化、ランドスケーパーたち(後述5)の思想は、日本の造園文化と多くの共通点を持ちながらも「異なる歴史から生まれるまったく新しい視点」を与えてくれました。
1. オーストラリアの“庭文化”は、生活とアイデンティティの象徴だった

◇ 植物の価格差が示す「庭を支えるコスト構造」
現地の園芸ホームセンターを訪れると、日本とは全く違う価格帯などに驚かされました。
・ 植物は日本の 5〜10倍
・ 園芸資材は海外製が中心で、品質にばらつきがある
・ 日本のような「安くて品質が安定した園芸用品」という文化がない
植物単価の高さはそのまま、「庭を持つことが一つのステータスである」という価値観につながっています。
庭は“贅沢品”ではなく、生活空間そのものを豊かにする投資対象として位置づけられていることを強く感じました。
◇ 固有文化の回復と環境保全から生まれた植栽ルール
特に興味深かったのは、「庭を新しく作る際には、60%以上をオーストラリア原産の植物にしなければならない」という法律。
これは単なる緑化政策ではなく、
・ 植民地時代の歴史
・ 欧州文化への依存
・ 自国文化の再構築への動き
・ 生態系保全への強い意志
がすべて絡み合った結果です。
庭が、その国の文化や思想の鏡になっていることがよく分かります。
2. 「家に住み続けない」という文化がつくる、庭市場

オーストラリアでは、家は一生住み続けるものではなく、ライフステージに合わせて住み替える文化が根付いています。
・ 子育て
・ 仕事
・ 趣味
・ 収入
・ 家族構成
これらが変わるたびに家を買い替えるのです。
◇ 庭は“資産価値を押し上げる戦略”として扱われる
売却前には、外壁や室内だけでなく、庭も必ずアップデートされるとのこと。
庭の良し悪しが家の査定に直結するため、庭は経済的価値を生む資産として扱われます。
これは日本の「庭=維持・管理の対象」という意識とは大きく異なり、庭の存在意義そのものを再考させられる文化でした。
◇ 公共施設の樹木剪定は行政が担当するという構造の違い
街路樹などの公共樹木管理は行政が直接施工し、民間造園会社が請け負う文化はほぼありません。
そのぶん民間の庭づくりに特化し、独自のスタイルやブランド性を育てやすい環境が整っていると感じました。
3. 日本庭園の思想は、海外でも強く求められている

今回の出張のハイライトは、現地造園企業と行った日本庭園ワークショップです。
スタッフ8名が参加し、質問が絶えないほど活気のある場になりました。
◇ 特に関心が高かったのは「思想」「哲学」
技術的な内容よりも、以下のような“考え方”に強い関心が寄せられました。
・ 日本庭園における「間(ま)」
・ 引き算の美学
・ 枝を切る基準の背景にある思想
・ 存在しないもの(空間・余白)の価値
・ わび・さびはどこから生まれたのか
・ 自然と人の関係性
彼らは「手順」よりも「哲学」を求めている。
これは日本庭園文化の強みが最も発揮される部分だと感じました。
4. 日本の剪定技術は、“未来の姿をつくる技術”だと実感

現地の剪定技術は、主に外形を整える「刈り込み剪定」が中心です。
一方、日本の剪定には“樹木やその空間の未来の姿をつくる”という思想があります。
・ 風が抜ける道をどうつくるか
・ 光をどう通すか
・ 来年・3年後・5年後の樹形や空間をどう描くか
・ 木の個性と向き合うこと
・ 空間全体の調和
ツツジとモミジを使った剪定実技ワークショップでは、この“未来視点の剪定”に強い驚きがあったようです。
特にモミジの剪定では、若い女性スタッフが熱心に学び、積極的な質問が出ました。 この反応を見るだけでも、日本の造園技術は海外で大きな価値を持つという確信を得ることができました。
5. 「ランドスケーパー」という誇りと、日本文化との共鳴

現地スタッフは口を揃えて、
“We are not gardeners. We are landscapers.”
(私たちはガーデナーではなく、ランドスケーパーだ)
と言います。 「庭や植物を手入れする園芸家」ではなく、“空間をつくる専門家”としての誇りを持っているのです。
◇ リンゼイさんの「庭に対する哲学」
特に代表リンゼイさんの言葉は、日本の庭文化に深く通じるものでした。
「僕の作る庭は、人が自然を取り戻すための場所なんだ。」
・ 自然の理解
・ 文化としての庭
・ 心の余白を生む空間
・ 人と自然の距離感を正す場
これらの考え方は、日本庭園の本質とも強く共鳴しており、 文化が違っても“庭に向ける姿勢”は共通している部分もあると感じました。
6. 造園教育アプリ「Teien Master」の可能性と海外展開

現地造園企業や専門学校に開発実証中の「Teien Master」を紹介したところ、以下のような評価をいただきました。
◎ 高評価
・ 造園初心者への教育として非常に優れている
・ 動画教材として分かりやすい
・ 日本技術の体系化という点で価値がある
・ 海外の若手教育にも活用できる
◎ 改善点(非常に具体的で有益)
・ カテゴリーを“レベル”ではなく“学びたい項目ごと”に細分化する
・ “思想”と“手の動き”をセットで伝える構造が望ましい
さらに、造園技術学校への紹介も決まり、海外教育機関への導入の可能性が広がったことは大きな成果でした。
7. 今回の出張は“国際的な人材育成とネットワーク構築実現への確かな一歩”

今回のワークショップを通じて見えたのは、シドニーには日本庭園を学びたい層が確実に存在する、という事実です。
・ 技術
・ 哲学
・ 歴史
・ 文化背景
・ 空間の考え方
これらを体系化して提供することで、国際的な人材育成とネットワーク構築の実現性は非常に高いと感じました。
現地造園企業との協働は、将来的な“日豪造園交流プロジェクト”にも発展できると確信しています。
総括|庭を通じて文化が交わるとき、新しい風景が生まれる
今回のシドニー出張は、単なる海外視察ではなく、庭という文化を媒介にした国際的な学びの場でした。
・ 日本技術・日本思想は海外で確かな需要がある
・ オーストラリアの庭文化は成熟しており、相互学習が可能
・ AIを活用した造園職人育成プラットフォームは国境を越えて価値を発揮できる
・ 国際的な人材育成とネットワーク構築に向けた手応えを得た
・ 文化的対話を通じて造園の本質を再発見した
庭はその国の文化・歴史・環境を映す鏡であり、同時に、人と自然を再び結び直す装置でもあります。
これからも、寺尾園芸土木は日本の庭園文化の魅力や技術を世界へ伝える挑戦を続けてまいります。
代表取締役 寺尾 郁哉


